伝えたいこと
「感謝」。小学生の時の私が、祖父へ書いた作文のテーマである。小学校で友達に将棋を教えてもらい、家に帰って父に「将棋をしたい!」と言い、祖父が買ってくれたプラスチックの将棋盤と駒で毎日のように将棋を指した。
そんなある日のことだった。祖父の家で木製の駒を見つけた私。「おじいちゃん、この高そうな駒を使ってみたい!」と、おそらく目を輝かせて言っていただろう私に祖父は、「もっと強くなったらね。」と。その後はそれまで以上に将棋盤と駒を使い込み、駒の字が消えてしまったのだ。そのことを知った祖父は、私の念願の駒で将棋を指す相手になってくれるようになった。将棋を趣味にしていた祖父に当時は駒落ちでもなかなか勝つことが出来なかったが、今ではそれも良い思い出だ。
この春、女流棋士になったことを祖父に伝えた時、祖父は誰よりも喜んでいた。研修会時代には例会は来週だというのに、「どうだった?」と電話がかかってくることもしばしばあったが、私を心配してのことだったのだろうと思う。これからは心配させる孫ではなく、自慢できるような孫になりたいものだ。
作文を今でも大切に持っていてくれる祖父にもう一度、「感謝」を伝えたい。
榊 菜吟