巨人とロボット
万有引力を発見したことで有名なアイザック・ニュートンは、ある科学者に手紙を送った際、科学の進歩について「巨人の肩の上に立つ」と表現した。先人の積み重ねた成果によって新しい発見を行う事、と解釈されている。
これは将棋の進歩にもあてはまるのではないだろうか。400年という歴史の中で、数々の偉大な先生方が、新たな戦法を創り出してきた。また序盤戦術だけでなく、中終盤における大局観や手筋など、すべての棋士が過去の先例を学び、実力向上に努めてきた。
そう、最近までは。
ご存知の方も多いと思うが、AIが登場して状況は一変した。今まで当たり前だった常識が、通用しなくなることが増えた。もちろん、これまでも考え方が変わることはあっただろう。でもそれはもっとスローペースで、長い年月をかけて変化するものだった。
巨人よりもはるかに大きなロボットが現れ、多くの棋士が戸惑ったと思う。将棋の勉強法にAIが加わり、その有用性がいかなるものなのか、またどういった活用法が優れているのか、時間をかけてこれから証明されていくのだろう。
今は巨人の肩の上に立てても、ロボットに蹴り飛ばされてしまうような時代である。それでも己を信じ、巨人の肩の上を目指す棋士もいる。私は怖くてとてもそんなことはできず、ロボットを操縦している(こちらは肩の上に立つのはほぼ不可能)。
ただ、両者の目指すところ、つまり本質は同じである。常に良い手を探すのは棋士の宿命だ。
リンゴがいつ、どの木から落ちてくるのかなんて、分からないのだから。
池永天志