初対局

四段昇段が決まってからそれまでの生活とは打って変わり、お祝いや賞賛の言葉をかけて頂く日々が続く。
最初はまるで他人事のように感じながらも次第に実感が湧くようになりあちこちに飛び回って嬉しい悲鳴をあげていた。
そうしているうちに、気がついた時には5月の下旬になっていて初対局が組まれた日程が間近に迫っていた。

初戦が所属ではない方の会館であるというのは聞くところによると相当レアなケースらしく、移動中列車に揺られながらぼーっと外を眺めるもあいにくの曇り。何だか幸先悪いなとなんとなく思いながらホテルに着いて一息つく。

なかなか行く機会のない東京なので、普段は何を食べるか熟考しながら向かうのだが、
この日はノープランで何となくホテルから1番近いラーメン屋へ。
大は小を兼ねるというモットーのもといつも大盛りを頼んでしまうのだが、予想の数倍のサイズが提供され苦悶の表情を浮かべながらもなんとか完食。(美味しかったです)
しかし予想に反する出来事が続き、不穏な空気を感じてモヤモヤしていた。意外とこういうことは気にするタイプなのだ。

まあそんなことも寝て起きればだいたい忘れる都合のいい性格なので、朝を迎えいざデビュー戦へ。
しかし、緊張からか、これまで経験した公式戦とは違い対局が始まってもソワソワする。3手先もまともに読めない。普段も大して読めてはいないのだが。とは言え、さすがにこれはまずいと思い席を立ち、顔を洗う。しっかり時間を使い、一手一手、必死に、考える。
ああ、そうだ。このハラハラしてヒリヒリする勝負の世界に魅入られて自分はプロになったのだという事を思い出すと不思議と落ち着きを取り戻した。秒を読まれながらもいい緊張感で勝負を楽しむことができ、結果も幸いした。

そのままの勢いで午後の対局も勝つことができホッと一息。長い長い棋士人生のスタートをたった一歩進んだだけかもしれないが、確かな一歩である。
これからもっと大きな舞台で心踊る勝負ができるような棋士人生を歩んでいきたい。

徳田拳士

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